
船上には、大きく分けて二つの種族が存在します。
一方は最新タックルを携え、釣果より先にカメラを構え、インスタ映えを命とする現代型の「インスタアングラー」。
もう一方は年季の入った道具を携え、潮の香りと加齢臭が絶妙にブレンドされた「おっさんアングラー」。
同じ船に乗り、同じ海にジグを落としているはずなのに、なぜここまで世界が違うのか。
どちらが正しい、どちらが偉い、という話ではなく、行動や思考そして価値観、そのすべてが噛み合わないだけである。
本記事では、スロージギングというフィールドを舞台に、「インスタアングラー」と「おっさんアングラー」の生態や違いを、愛と少しの毒を込めて解説しいきます。
読み終わる頃には、きっと船の上の人間観察が、今より少し楽しくなっているはずです。
それでは始めましょう!
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なぜ今「インスタアングラー」と「おっさんアングラー」なのか
インスタアングラー
近年は、SNSの普及により大きく様変わりし、釣果情報は一瞬で拡散される時代で、その中心にいるのが「インスタアングラー」です。
彼らの朝は「光の確保」から始まり、船の集魚灯をバックに、まずはタックルやタックルボックスなどを角度を変えながら撮影。
タックルは当然、最高峰のもので、傷一つないオシアジガーリミテッドモデルが、朝日を浴びてキラキラと輝いています。
「今日も海に感謝。#スロージギング #朝焼け #釣り好きな人と繋がりたい」という一文を添えて、出船前にSNSを更新。
この時点で彼らの釣行目的の50%は達成されたと言っても過言ではありません。

おっさんアングラー
対するは「おっさんアングラー」。
彼らは暗闇からヌッと現れ、手には「いつから洗っていないのか分からない」クーラーボックス。
ウェアはシマノでもダイワでもなく、近所のワークマンで調達した実用性重視の防寒着。
タックルは使い込まれ、元の塗装が剥げ、指の形に摩耗し、すでに体の一部と化しています。
彼らにとって朝の準備とは、SNSの更新ではなく「昨夜から仕込んできた自作のアシストフック」の最終確認。
インスタアングラーが香水の良い香りを漂わせる中、おっさんからは「昨晩食べたニンニク料理」と「イカの塩辛のような体臭」が混ざり合った、熟成されたアロマが漂っているのです。
同じ船、同じ海、しかし別世界に生きる二つの種族
両者を一言で表現するとしたら、「インスタアングラーは発信者」、「おっさんアングラーは修行僧」と言えるでしょう。
そもそも彼らは目的が違うため、見えている景色も違うのです。
インスタアングラーは「今日は何が撮れるか」を考え、おっさんアングラーは「今日は何が釣れるか」を考えるのです。
彼らは同じ船にいても、心は別の海域を漂っているのです。

タックルに表れる両者の違い
タックル
「インスタアングラー」の新製品への反応速度は異常。
発売前から情報を把握し、発売日には船に持ち込まれるのではないかと思うくらいで、限定色ともなると「すぐに売り切れ」になるのです。
釣果写真には必ずタックル情報が添えられ、もはや釣りというよりレビューです。
一方「おっさんアングラー」は、10年前のリールがいまだに現役。
理由は「まだ壊れてないから大丈夫」。
ジグは塗装が剥げ、中には元のカラーが何色だったか分からないようなものも。
だが、そのジグで何が釣れたかを即答できるくらい、記憶が刻まれている。

タックルボックス
「インスタアングラー」のボックス内は整理されていて、色別や重さ、ブランド別などが整然と収納されている。
一方「おっさんアングラー」のボックス内は混とんとしている。
しかし、おっさんは迷うことなく必要なジグを一瞬で取り出せるのである。
ヒット時のリアクションが真逆
スロージギングにおいて、ヒットの瞬間は最大のクライマックスですが、その後の行動は真逆です。
インスタアングラーのリアクション
「インスタアングラー」にヒットが訪れた瞬間、彼は叫びます。「キタキタキタ!ちょっと待って、カメラ回して!」 同伴のインスタ仲間が、釣りを中断してスマホを構えます。
魚とのファイトよりも、「ロッドが綺麗に曲がっている角度」と「自分の横顔が凛々しく映る角度」の調整に余念がありません。
魚が水面に現れた瞬間、網ですくい上げるよりも先に、スマホの画角を確認。
「あ、今、逆光だった!もう一回!」という声に、海中のブリも呆れてしまう事でしょう。

おっさんアングラーのリアクション
一方の「おっさんアングラー」は、ヒットが来ても叫ぶ事はありませんので、周囲も気づきません。
ただ海面を見つめ、ドラグの滑り具合を耳で聞き分け、魚の首振りに合わせて、油の切れた膝の関節の痛みに耐えながら絶妙にクッションさせます。
おっさんにとって、ヒットは「戦い」であり「作業」なのです。
おっさんはスマホを取り出す代わりにナイフを抜き放ち、流れるような動作でエラを切って血を抜き、下処理を行うのです。
「映え」などという概念は脳内には存在せず、あるのは「いかにこの魚を、今夜の晩酌で最高の状態にして食べるか」という食欲への執念のみなのです。
インスタアングラーが「魚を持って100枚自撮り」している間に、おっさんはすでに次のジグをボトムへ落としています。
手返しの良さはF1レースのピット作業並みで、おっさんの辞書に「撮影休憩」という文字はないのです。
ランチの過ごし方が違う
食い渋る時間帯になると、船上は束の間のランチタイム、ここでも生態の違いが見てとれます。
インスタアングラーのランチ
「インスタアングラー」がバッグから取り出すのは、お洒落なサンドイッチや、色鮮やかなサラダなどの映えランチ。
彼らはキャビンで食事をする際も、ライティング一つに気を使います。
綺麗に盛り付けられたランチボックスが投稿されますが、実際には船酔いと撮影の疲れで、半分も食べられずにカモメの餌になっていることも珍しくありません。

おっさんアングラーのランチ
一方、「おっさんアングラー」のランチは、徹底的に「茶色」です。
コンビニのおにぎり、もしくは少し潰れたカップヌードルに、冬場であれば、水筒に入れてきた謎の熱いお茶。
彼はキャビンに入ることもなく、潮風に吹かれながら仁王立ちで麺をすすり、ランチタイムは3分で終了。
汁まで飲み干したカップ麺の空き容器を、乱雑にタックルボックスへ押し込み、すぐにジグを落とす。
その背中には、哀愁を通り越したオーラが漂っています。
「いいね!」か「おすそ分け」か
帰港後、本日の釣果を報告する、ここが最も差が出るポイントです。
「いいね!」
「インスタアングラー」の釣果写真は、もはや芸術作品と言えます。
広角レンズを駆使し、魚をカメラに極限まで近づける「遠近法」により、3キロのワラサが、彼のSNSでは10キロのブリに見えます。
背景はぼかし、色調は鮮やかに補正し、「今日は渋かったけど、なんとか一本!海に感謝、船長に感謝!」 しかし、実際のクーラーボックスの中身はスカスカ。
彼はその「一本」を撮るために帰港後の1時間を費やし、承認欲求は世界中からの「いいね」によって満たされるのです。

「おすそ分け」
一方、「おっさんアングラー」のスマホに写真は残りません。
あるのは、無造作にクーラーボックスに入れられた魚たちで、帰宅するなり近所の家に「これ、今日釣れたから良かったらどうぞ」と魚を配り歩きます。
彼の承認欲求はSNSではなく、近所のおばちゃんからの「いつも助かるわぁ」の一言で爆発的に満たされます。
しかし、おっさんも実は「サバ読み」をします。
ただし、彼はSNSではなく、酒の席でサイズを盛ります。
「今日逃がしたやつは、間違いなく30キロはあった」と。
証拠写真がないことを逆手に取り、逃がした魚をクジラ並みのサイズにまで成長させる、これがおっさんの伝統芸能なのです。
和解。世代を超えた「根掛かり」
ここまで両者を比較してきましたが、実はこの二者が急接近する瞬間があります。
それは、「強烈な根掛かり」をした時です。
「あ、やべ……」と顔を青くする「インスタアングラー」。
高価なPEラインが虚しく海へと伸び、どうしていいか分からずオロオロ。
その時、隣でおにぎりを食べていたおっさんが無言で立ち上がります。
「 おっさんはアングラー」はジギング用のグローブをはめ、手慣れた手つきでラインを巻き付けて一気に引き抜きます。
「リーダーから切れたな。結んでやるよ」 ぶっきらぼうな一言。
しかし、そこには長年の経験に裏打ちされた優しさがあります。
「インスタアングラー」は、そのおっさんのゴツゴツした、魚の鱗がこびりついた手を見て気づくのです。
「この人、すげー」と。
一方、「おっさんアングラー」も、若者が一生懸命に(自撮りをしつつも)竿を振る姿を見て、かつての自分を思い出します。「最近の若えのも、根性はあんな」と。
最後には、おっさんが「インスタアングラー」に「このジグ、食うぞ」と、塗装がハゲ散らかしたボロボロのジグを貸し出し、若者がそれで見事に魚を釣る。
「船長、写真撮ってください!おじさんと一緒に!」 インスタにアップされたその写真には、少し照れくさそうに、ピースサインを出すおっさんの姿が。
ハッシュタグには「#師匠 #最高の休日」の文字が。

まとめ:結局どっちも「釣りバカ」
「インスタアングラー」vs「おっさんアングラー」、いかがでしたでしょうか?
映えを命とする「インスタアングラー」も、晩酌を愛する「おっさんアングラー」も、結局のところ「魚を釣りたい」という、同じ病に侵された「釣りバカ」なのです。
「インスタアングラー」の皆さん、たまにはカメラを置いて「血抜き」をしてみてはいかがですか?
「おっさんアングラー」の皆さん、あなたのその無骨な姿は、彼らの目には最高にクールな「コンテンツ」として映っているはずです。
いずれにしても、スロージギングという最高の遊びを共有する仲間であることに変わりはありません。
さあ、今日も重たいジグをボトムまで落とし、奇跡のワンピッチを繰り出しましょう!






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